書くということを学ぶ、桜木紫乃の「砂上」

読書・映画

 40歳でバツイチ、なんの資格も特技もなく、食べていくことすらギリギリの女性が書くことを選ぶ、という小説をご紹介します。

 理系人間の私にとって、国語は苦手で小説を書くことの意味すら分かりませんでした。そんな私も大人となり、本との出会いにより活字の威力を感じ、論文による資格試験により書くことを初めて考えるようになりました。それでも小説を「書くこと」など、全く意識することはできません。

あらすじ

 主人公の柊令央は新人賞の選考に漏れたものの、突然現れた女性編集者、小川乙三の感情を感じない、ドライすぎる勧めにより書くことを決意します。

 題材は、一年前に亡くなった母、自分、そして妹として育った娘。(またも登場人物は女性だらけ)しかし、壮大な嘘が小説には必要と編集者に指摘され、改訂を求められます。昼のバイトに加え、深夜から朝方まで書き続け、主人公はストレス・疲労から体調を崩します。しかし、書くということにおいては、そんなことに対する同情は何の役にも立ちません。

 主体性なく生きてきた主人公は、女性編集者の指摘を乗り越えるため、自分の生き方を変える決意をし、また家族の秘密を知る唯一の人物に逢いに浜松へ足を運びます。そこで、自分の知らない母を知ることになります。そして、彼女はようやく母を肯定できるようになり、そして、小説はようやく完成します。

 小説を書くということは、単なる作り話の創作だけでは読者にその魂胆は見抜かれてしまうのです。心血を流し、壮大な真実の嘘をつき、心の奥底にある言葉を紡ぐことで、はじめて読者に読んでもらうことが出来るのです。

 こうして記事を書いておきながら、私は自分が感じたことを納得する文章で伝えきれていません…、申し訳ありません。何とももどかしい訳ですが、納得できる言葉を見つけるまで、書くことのプロたちは心血を注いでいるのだと思います。時に体調を崩しながらも…。

 ラストでは、主人公は、母に似て来ていると妹に指摘されます。母を肯定できたことを象徴するシーンです。


砂上 (角川文庫)

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